MIYABIの部屋

いつの日もこの胸に流れてるメロディー

角田光代『坂の途中の家』

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角田光代著『坂の途中の家』
「八月の蝉」「紙の月」等の代表作で知られるベストセラー作家 角田光代の“家庭に潜む究極の心理サスペンス”ノベル。
ー最愛の娘を殺した母親は私かもしれないー


※以下ネタバレを含む書評がありますので未読の方はご注意ください!


「BOOK」データベース等をもとにざっくり内容を纏めると・・・
主人公の山咲里沙子は2歳の娘と夫と暮らす結婚4年目、30代の専業主婦。
日々の子育てに奔走するさなか、「裁判員裁判の候補者に選出されました」という内容の通知書が届き、乳児虐待死事件の補充裁判員として刑事裁判に参加する所から始まる。

はじめは生後8ヶ月の我が子を浴槽に落とし、虐待死させた母親に嫌悪感を抱いていた里沙子だったが、証言に触れていくなかで“この母親は私なのでは…”、いつしか女性の境遇に自身の心に眠っていた混沌とした感情を重ねていくのであった。

***

この本を手にした動機は、いつだったか幼児虐待事件を取りあげる報道ニュースを見ていた時、「何で一番可愛い盛りにどうして手が掛けれるんだろうねぇ」と誰かが話しているのを聞いて、私自身は子育ては未知の領域なので、一番身近にいる甥っ子や親しい友人の子を思い浮かべ激しく同意した事がきっかけです。


読了して先ず、全国の子育て中のお母様方並びに育児経験をお持ちの全ての方々に、毎日お疲れ様ですと尊敬と敬意を表したいとそう思います。


でもちょっと怖いなと思ったのは、ワイドショー等で躾と表して日常的に体罰を与えたり育児放棄する親は最低で、こんな奴に子どもを育てる資格はないと吐き捨てた事もありましたが、そう思った時にはもう別の話題に切り替わっていて、ドキュメンタリー番組のようにその家族の日常を密着なんてある訳がないので、“親が子供を殺めた”という事実のみしか視聴する側には見えない。


もしかしたら子育てに行き詰まり、悩み、苦しみ、相談できる人も居らず、模索すればするほど空回りして、出口が見えずにどんどん追い詰められていったのかもしれないし、勿論そんなことは当事者にしかわからない事だけど、心も体も疲れ果て情緒不安定に陥っている時に子どもが言うことを聞かず泣き暴れ、そこに夫や義母が窘めたり精神的プレッシャーを与えもすれば、私だって理性をなくしてしまうかもしれない。


夫婦とは言え元は他人。悪意や他意はなかったとしても、相手側がネガティブに受け止めてしまえばそれらはハラスメントとなる。
自身の育児経験との共通点を重ね合わせていく主人公の主観で話が展開していくので、だんだん読んでいるうちに、被告人の安藤水穂こそ被害者だったのではないかとさえ思えてくる・・・。


本書では一審の判決が下る9回の公判の中で見えてくる被告人やその家族の姿に、主人公が“そういえば私もこうだった…”と回顧していくプロットになるのだけど、ただこの主人公、最初から最後までずーっとイライラしっぱなしで、何でもかんでも悪い方に解釈して孤軍奮闘している印象が拭えず、その主観に引っ張られたのもあるかもしれません。読む人によってはちょっと注意が必要かもしれない?!


裁判員制度が導入されてから10年。
日本国籍で20歳以上の有権者の中から抽選で選ばれた候補者が、最終的に1裁判6名に絞られ、裁判員(場合により補充裁判員)として実際に刑事裁判に参加する制度。
…というのは何となく理解しているけど、ネットには宝くじにあたる位の確率、とあったのでどこか他人事の様に思えてならないのだけれど、出来るのならば私の事はスルーしてくれないかなぁというのが率直な感想です。


リーガル系ドラマや法廷ミステリー、逆転裁判のゲームは大好きなんだけど、こういうのは映画や小説の中だけで充分かなと…。


4月に柴咲コウさん主演でWOWOWで連ドラ化され、12月20日のDVDリリース以降TSUTAYAさんで先行レンタルされる模様。
楽しいドラマ…とは言えないけれど、柴咲さんと水野美紀さんならどちらも好きな女優さんだし、機会があればチェックしてみたいです。

事実は小説より奇なり?
角田光代「坂の途中の家」★★★★☆